【残業代請求】【固定残業代合意】元社員から、残業代と付加金で800万円以上の請求を受けたが、固定残業代の合意を立証し、1割以下の認容に留めた判決を獲得した成功事例

1.業種、相談の概要

専門職(士業)の事務所代表からのご相談です。退職した元社員から、自分の事務所に対し、在職中に支払われていない未払賃金(残業代)の請求がなされているとのことで、当事務所へご相談にいらっしゃいました。

・請求されている側:士業事務所代表(相談者様)
・請求している側:元社員(資格を有さない事務員)
・退職済
・在職中に時間外労働(残業)をしたが、割増賃金(残業代)が未払であると主張して、付加金含む約800万円の請求を求め、提訴される。

2.元従業員の主張・本件の争点

(1)雇用契約書の紛失

相談者様は、元社員の採用時、雇用契約書において固定残業代(※みなし残業代、定額残業代)の合意を取り付けておりましたが、元社員から訴訟を提起され、改めて当時の資料を確認したところ、元社員の雇用契約書が、見つかりませんでした。

元社員側の主張としては、「固定残業代の合意はなく、固定残業代について記載された労働条件通知書は交付されていない。雇用契約書も取り交わしていない。だから、残業をした分の残業代を支払え。」等と、相談者様の認識する事実経過と全く真逆の主張をしてきました。

裁判においては、事実を証明する必要がありますので、雇用契約書がご相談者様の手元にないことは、ご相談者様にとって非常に不利な状況でした。

固定残業代とは

固定残業代とは、毎月の残業時間にかかわらず、一定額の残業代を支払う制度をいい、会社によって、みなし残業、定額残業代(手当)など名称が異なりますが、実態は変わりありません。固定残業代は完全に残業代の代わりになるわけではなく、現実の残業時間に基づく残業代が固定残業代を上回った場合は、会社はその超過額を支払う必要があります。

(2)タイムカードの打刻

元社員は、勤務していた当時のタイムカードの記録を提示し、勤務時間を主張しました。確かに、早朝から深夜まで打刻されており、長時間勤務したように見えますが、業務の必要がないのに深夜まで事務所に残っていたり、指示に従わず早出して打刻したもので、勤務の実態はないというのが相談者様の主張です。

(3)変形労働時間制

ご相談者様の事務所では、所内に掲示された「年間カレンダー」に従って勤務がされており、労使協定の締結や社員総会等を実施しているというのが相談者様の主張でしたが、元社員側は、要件を満たさない等と主張し、変形労働時間制に応じて出勤した日についても、休日出勤である等として残業代の請求を行ってきました。

3.当事務所のサポート及び本件の結果

(1)訴訟の対応

元社員は、弁護士に依頼し、請求に応じられないとの当方の回答に対し、訴訟を提起しました。
訴状では、付加金(※)も含め、800万円余りの請求がなされ、固定残業代を前提として給与支払を行っていた相談者様は多いに驚かれたということです。

当事務所の担当弁護士及びスタッフは、相談者様より受け取った元社員が在職中の資料をもとに、裁判所に提出する証拠や日報等に基づく実労働時間を入力した表を作成いたしました。

※付加金とは

付加金とは、労働者の請求により、裁判所が裁量により支払を命じる金銭のことです。 裁判所から付加金の支払いを命じる裁判が下され、その裁判が確定すると、会社は残業代等の未払賃金に加えて、最大で当該未払賃金と同一の額、つまり2倍の金額を労働者に支払う義務が発生します。

(2)実労働時間について

元社員が、深夜勤務を行ったとして提出してきたタイムカードの打刻について、上司の帰社を待っていたから帰らなかった等という元社員側の言い分に対し、当方弁護士より、元社員は自分で事務所の施錠ができたし、警備会社に施錠を依頼して帰宅することができた等の反論を行いました。

裁判所の判決において、元従業員が特段の理由なく深夜残業を行った時間は残業時間として認められないとの判断がなされました

(3)前職場の給与

元社員側は、相談者様の事務所には、残業代を含めない金額を給与及び年収として提示され、採用された。そのため、残業した分については、当該給与を前提とした割増賃金(残業代)が発生する等と主張しました。

これに対し、相談者様としては、面接時に役職手当や固定残業代を含んだ金額を年収として提示し、さらに採用後の面談でも説明していますし、雇用契約書にも記載したとの主張です。

裁判において、当事務所の担当弁護士は、元社員の前職場における残業代込みの年収と相談者様の事務所における固定残業代を含んだ年収がほぼ同水準であること、相談者様の事務所で別途残業代が発生することになると、仕事内容が変わらないにもかかわらず前職場の年収よりも大幅に高くなること、当該士業の業界では、だいたい職務内容は似通っており、前職での給与額を参考に給与を決定することは一般的であること等を主張し、前職の残業代込みの給与額を前提として相談者様の事務所における給与が決定されたことを主張しました。

(4)固定残業代の合意の有無について

元社員側は、「固定残業代の合意はなく、固定残業代について記載された労働条件通知書・雇用契約書も取り交わしていない」と主張しました。

これに対し、担当弁護士より、相談者様の事務所では、元社員以外の従業員には実残業時間に応じた1円単位の金額で実額の残業代が支払われていること、そのことが事務所会議などでも共通の話題になっていたこと等を指摘し、裁判所は、双方の証言の信用性等をふまえ、固定残業代の合意は有ったと認定しました

(5)変形労働時間制

担当弁護士より、所内で使われていた年間カレンダーのコピーや、元従業員が参加した社員会議において労働者代表が選出され、当該年間カレンダーを前提とした労使協定締結に関する資料等をふまえ、裁判所は、ご相談者様の主張どおり、変形労働時間制を採用していることを認めました。そのため、元社員の「休日出勤をさせられたのだから、その分の残業代を支払え」という請求は認められないこととなりました。

(6)裁判所の判断

実労働時間、固定残業代の合意、変形労働時間制など、相談者様の主張の多くが裁判所に認められました。
最終的な結論としては、固定残業代の合意を前提としても、毎月の勤務時間からすると、実際の残業代は固定残業代を上回っている部分があり、一定額については支払義務があるとされたものの、その金額は請求額である800万円の1割以下であり、付加金を含めても約100万円強の金額に留まるもので、実質的には相談者様勝訴の判決を受けました。

元社員側は控訴しましたが、第2審(控訴審)においても、第1審とほぼ同様の判断がなされました。

3.解決期間と弁護士費用の目安

ご相談の事例において、解決まで要した期間と三輪知雄法律事務所の弁護士費用は以下のとおりとなります。

解決まで要した期間と弁護士費用

○ご相談から解決までの期間:約1年半程度

○三輪知雄法律事務所の弁護士費用
 ・着手金:経済的利益(請求額からの減額分)の5.5%+9.9万円 
 ・報酬:経済的利益(請求額からの減額分)の11%+19.8万円

※消費税込の価格です。実費、日当等は別途。
※費用は、あくまで参考としてお示しするものであり、顧問契約の有無や相談内容によっても異なりますので、詳細は法律相談の際に担当弁護士までお問い合わせください。

4.三輪知雄法律事務所の担当弁護士からのコメント

本件の担当弁護士
三輪知雄法律事務所
代表弁護士:三輪 知雄

三輪知雄法律事務所の代表弁護士・税理士。
出身地:名古屋市。出身大学:京都大学法科大学院。
主な取扱分野は、労務トラブル、M&Aに伴う法務DD、ハラスメント・クレーム対応、問題社員対応、経営者の相続・事業承継など。

本件は、専門職(士業サービス)の事務所代表からのご相談でした。
小規模な事務所では、原則、部署異動などがなく、勤務先である事務所を変わっても、従事する業務内容は基本的には類似しており、業務の類似性が一般事業会社と比べ認められやすい業態であることが特徴です。

加えて、固定残業代について記載された労働条件通知書・雇用契約書の有無に争いがあっても、原告の前職の年収、就労中の従業員の残業に対する認識や言動、社員会議の存在や双方の尋問結果など多角的な主張・立証をふまえ、固定残業代の合意について認定を得ることができました

未払賃金請求事件においては、勤務時間について労働者側の主張が採用される傾向ですが、本件では、タイムカードの打刻時間だけではなく、作業実績や労働の必要性を鑑み、実労働時間を判断されました。

残業代請求の裁判に限らず労務トラブルでは、労働条件通知書・雇用契約書など客観的な証拠が重要です。辞めた社員が、後になって弁護士を立て、残業代について請求してきた・・・というケースは、起こり得ますので、労働条件通知書・雇用契約書、出勤簿・日報(作業実績がわかる資料)、雇用保険被保険者資格喪失届等、従業員についての資料・書類は残しておき、実際に請求された場合は、速やかに弁護士へご相談ください

また、在職中から、業務指示に従わないとか、勝手に早出・残業をするいわゆる「問題社員」については、本件のように、退職後にトラブルのないよう在職中から弁護士に対処を相談することをおすすめします。

当事務所は、未払残業代請求・労務トラブルへの対応経験が豊富にありますので、今回のご相談者様のように、従業員についてお悩みのある企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。

5.当事務所の残業代請求・労務トラブルに強い弁護士へのお問い合わせ

三輪知雄法律事務所の「残業代請求・労務トラブルに強い弁護士」へのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間・平日 9:00~18:00)」にお電話いただくか、下記の画像をクリック頂き、メールフォームによるお問い合わせも受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

※この記事は公開日時点の法令等をもとに作成しています。
※個人情報保護及び争点の理解等の観点から、結論に影響がない範囲で事案の一部を変更している場合があります。