【リファラル採用】(社員紹介制度)導入における注意点や必要な法的整備をアドバイスした事例

1.業種、相談の概要

案内標識や広告、看板の設置等を営む社長様からのご相談です。

営業職の社員が多いこともあり、常々人材の採用方法や育成について工夫しており、人材採用の方法として、「リファラル採用」の導入を検討していること、及び導入の際の注意点や法的整備について、三輪知雄法律事務所にご相談にいらっしゃいました。

2.リファラル採用とは?

「リファラル(referral)」とは、「紹介・推薦」などの意味を持つ英語で、「リファラル採用」とは、社員自身の知り合いを自社に紹介してもらい、採用する手法のことを言います。「社員紹介制度」とも呼ばれています。

求職者は、社風や仕事内容等、現に会社で働いている社員から、仕事のやりがいや会社の実情を聞いた上で面接を受けることになるため、通常の採用に比べ、求職者と採用者のミスマッチが少なくなると言われています。

採用側としても、社員に「こんな人材がほしい」と採用したい人物像を伝えるなど、一定の要望を出すことができ、その上で、社員から紹介を受けることになるので、候補者に一から会社の社風や職務内容などを伝える必要がないという利点もあります。

また、双方のミスマッチが少ないということは、職場への定着率の向上にも繋がります。

さらに、多数の書類選考や多数回の面接などを行う必要がなく、通常の採用活動よりコストがかからないというメリットもあります。

3.リファラル採用導入にあたり、注意すべき法的なポイント3点

リファラル採用には、通常の求人採用と同様、職業安定法、労働基準法などの法律に抵触しないよう、注意すべき法的なポイントが3点あります。

注意すべき法的ポイント3点

・注意点1:インセンティブ(紹介料)の支払方法について
・注意点2:インセンティブ(紹介料)の金額について
・注意点3:リファラル採用に関する社内規定の整備について

注意点1:インセンティブ(紹介料)の支払方法について

リファラル採用の制度では、採用した人材を紹介してくれた社員に対して、インセンティブとして紹介料を支払うことが一般的ですが、支払方法について注意が必要です。

職業安定法では、新規社員の募集を行う従業員に対して、賃金以外の報酬を支払うことを禁止しています。

報酬の供与の禁止

労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない(職業安定法第40条)。

上記の法律によると、「賃金として」でないと、会社は紹介者である社員にインセンティブ(紹介料)を支払うことができません。

したがって、会社は「社員紹介手当」などの形として、給料と一緒にインセンティブ(紹介料)を支払うことが考えられます。

注意点2:インセンティブ(紹介料)の金額について

リファラル採用にて採用を行った際、紹介者に支払うインセンティブ(紹介料)は、法律に違反しないよう適正な金額に設定しておく必要があります。

労働基準法では、許可なくビジネスとして職業紹介をしてはいけないことになっています。

中間搾取の排除

何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない(労働基準法第6条)。

ですから、インセンティブ(紹介料)の金額は、ビジネスとしての職業紹介にならない程度の金額が妥当と考えられます。

ビジネスにはならない程度の金額とは抽象的な表現ですが、具体的に、業として行われている職業紹介の手数料(職業紹介事業の許可を得ている人材紹介会社の紹介手数料)は下回っておく必要があると考えられます。

一般的に、人材紹介会社は、人材紹介料を年収の30%から35%で設定していると言われています。仮に、年収が300万円の人を採用した場合、人材紹介料は90万円~105万円程度となることになります。

その金額を確実に下回るよう、リファラル採用におけるインセンティブ(紹介料)の金額を設定する必要があります。相場としては、数万円~30万円の範囲で設定している企業が多いようです。

注意点3:リファラル採用に関する社内規定の整備について

労働基準法では、許可なくビジネスとして職業紹介をしてはいけないことになっていますので、リファラル採用を導入する際には、ビジネスとしての職業紹介を防止する規定や、インセンティブ(紹介料)に関する事項を就業規則に改めて記載する必要があります。

下記に、記載すべき事項の具体例を挙げます。

①社員の紹介人数に制限を設ける

「社員紹介手当の支給は、社員1人につき3名までの紹介とする。」などと規定し、社員が紹介料を目当てに本業よりもリファラル採用を優先しないようにします。

また、労働基準監督署などの当局から、ビジネスとして職業紹介を行っているとみなされないようにすることが必要です。

②インセンティブ(紹介料)に関する事項

インセンティブ(紹介料)は、「会社に必要な人材を紹介した」という業務遂行に対して支払う手当であるということを社内規定に明記すれば、インセンティブ(紹介料)は、あくまでも賃金の一部であることを強調することになります。

また、労働基準法上、賃金に関する事項は必ず就業規則に明記しておかなければならないものなので、リファラル採用に関するインセンティブ(紹介料)を賃金として支払う場合は、支払時期や支給額などの支払条件も就業規則に明記しておくことが必要です。

なお、常時働く従業員が10人未満の企業には、就業規則の作成・届出は義務ではありませんが、労働条件を従業員に対して明らかにしておくことで、従業員は安心して働くことができますし、経営者と従業員とのトラブルを予防することに繋がるので、会社を守るためにも就業規則の作成・届出をお勧めします。

4.取引先からの紹介の場合

上記では、社員による紹介について説明させていただきましたが、取引先の企業から、求職者を紹介されて採用に至った場合に、謝礼として紹介料を支払う場合は何が問題となるのでしょうか。

この場合、職業安定法は「業として無許可で職業紹介を行うことを禁止している」と考えられるので、業として、求職者の紹介を行ったとみなされないようにすることが大切です。

具体的には、下記のような点に留意する必要があります。

  • 紹介は2、3回くらいまでに限る。
  • 紹介料は社員によるリファラル採用と同額程度の金額を謝礼として支払う

また、税務上、謝礼は交際費として処理することになります。

なお、「謝礼(交際費)」ではなく、人材紹介の対価として紹介料を支払うのであれば、税務上、契約書のない支出を経費として認定することは困難ですので、事前に業務委託契約書などにおいて、以下のような内容を定めておくことが必要となります。

  • たまたま紹介できる人物が見つかった場合に紹介してもらう
  • 紹介者が採用され、○ヶ月在籍した場合は、採用者1人につき○円を支払う
  • ただし、紹介できる人物は、2、3人までとする

あくまでも「業」として求職者の紹介を行っているのではないということを明らかにしておくことが重要です。

5.今回の相談の回答方法

今回は、三輪知雄法律事務所の担当弁護士が、相談者様より事情をお伺いし、相談の翌日には、上記で記述したリファラル採用導入に必要な点や注意点をメールで回答いたしました。

顧問契約を締結している顧問先の企業からのご相談につきましては、通常の対応よりも優先し「至急、回答がほしい。」といったご要望にも迅速に対応します。

三輪知雄法律事務所には税理士資格を持つ弁護士がおりますので、法律的な観点からだけではなく税務上からのアドバイスも可能です。

また、三輪知雄法律事務所では、就業規則の作成や改定、労働基準監督署への届出まで全てを代行して行っておりますので、就業規則の改訂についても、是非、ご相談ください。

▼就業規則の改訂に関する参考事例はこちら▼

6.弁護士費用の目安

ご相談の事例において、リファラル採用導入に関するリーガルチェック及び報告までに要した時間と三輪知雄法律事務所の弁護士費用は以下のとおりとなります。

ご相談からリファラル採用導入に関する調査及び報告までの時間と弁護士費用

・時間:約2時間程度
・費用:2万円
(ただし、顧問契約があれば、顧問料の範囲内での対応となります。)

※税、実費等は別途。
※費用は、あくまで参考としてお示しするものであり、顧問契約の有無や相談内容によっても異なりますので、詳細は法律相談の際に担当弁護士までお問い合わせください。

7.労務管理やリーガルチェックに関するご相談は、三輪知雄法律事務所へ

三輪知雄法律事務所の「労務管理・リーガルチェック」に関するお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間・平日 9:00~18:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。