【特定商取引法】【英会話教室】社会人スクールで特定商取引法の要件を満たす契約書を作成した事例
1.業種、相談の概要
社会人マナー、起業セミナー、パソコンスキルの教室、英会話など、社会人向けの教育サービス業を営んでいる会社様のご相談です。
以前から使用されている利用規約を見直されたいとのことで、三輪知雄法律事務所にご相談がありました。
サービスの内容、教材、プランなどを大幅に見直し、この度、年間契約のプランを新設することにしました。
利用規約案を作成してみましたが、特定商取引法に違反していないか心配とのことでした。
2.特定商取引法上の問題点
「パソコン教室」における契約書の重要性
社会人向けのスクール、英会話、パソコン教室の契約書の内容は、かなり長期間にわたって講義を受講したり、施設を利用できる権利が設定されていることが多くあります。
また、受講料は、1年から数年単位で納付することが多く、それなりの金額になります。
そのため、いったん契約した後に、受講契約を解約して納付済みの受講料の返還請求を受け、現実に返還を余儀なくされると、受け取った受講料を前提に講師を採用したり、教材の手配を行っている事業者としては、かなりの痛手となってしまいます。
特定商取引法の適用
特定商取引法は、特定の商取引の類型や、特定の内容のサービス提供を対象に、適用される法律です。
その中に、英会話教室やパソコン教室など、特定のサービス提供が対象となる「特定継続的役務」という類型があります。
対象は、以下の7サービスになります。
特定継続的役務の対象7サービスとは
エステ、美容医療、語学教室、パソコン教室、家庭教師(※)、学習塾(※)、結婚相手紹介サービス
※家庭教師、学習塾については、小学校又は幼稚園に入学するためのいわゆる「お受験」対策は含まれず、「学習塾」には、浪人生のみを対象にしたコースは対象外となります。
また、サービスの提供期間や金額にも一定の要件がありますので、詳細は弁護士にご相談ください。
なお、サービスの内容が、対面以外の、インターネット、ファックス、電話、郵便などを用いて行われる場合も含まれます。
特定商取引法に違反するリスクは非常に大!
クーリングオフ制度を甘く見てはいけない
特定商取引法は、特定の商取引を行う事業者に対する規制を定めた法律です。
そして、「特定継続的役務」についても、様々な規制を定めていますが、最も重要で注意しなければならない規制は、クーリングオフ制度です。
「特定継続的役務」におけるクーリングオフ制度とは、契約書面の受領から8日の間は、購入者は、事業者側の落ち度その他理由を問わず自由に解約できる制度です。
そして、法律が定める記載事項が記載されている契約書を、購入者に交付したときから、クーリングオフ期間の8日間のカウントがスタートします。
つまり、購入者に契約書を渡しても、法定記載事項の記載が不十分であるなど、その内容に特定商取引法の要件を満たさない不備があると、いつまでたってもクーリングオフ期間の8日間のカウントがスタートしません。
結果として、8日間どころか何ヶ月もの時間が経過したにもかかわらず、自由に解約(クーリングオフ)されてしまう恐れがあるということになります。
そして、その場合、事業者は、受取った購入代金を原則として全額返還しなければなりません。解約不可という条項があっても同様です。
しかも、この間に、購入者が、何ら問題なくサービス提供を受けていたり、関連商品を使用していたとしても、その対価を請求することはできません。
このような多大なリスクがあることから、特定継続的役務に該当するサービス提供を行う事業者においては、特定商取引法の要件を満たす事項がもれなく記載されている契約書を使用することが非常に重要となります。
繰り返しの違反には、都道府県や消費者庁などから立ち入り検査を受ける恐れもある
特定商取引法に違反する状態が繰り返されるなど、違反が悪質と見なされた場合には、都道府県、経済産業局及び消費者庁などから、立ち入り検査を受けることがあります。
また、違反の程度によっては、監督官庁から業務停止命令を下されるなど、事業者にとっては、取り返しのつかないダメージを受けることがありますので、特定商取引法における規制を軽視してはなりません。
3.問題点の解決
特定商取引法適用の判断は難しい
実は、特定商取引法の適用があるかどうかの判断は簡単ではありません。
パソコン教室であっても、サービスの提供期間や金額により、上記の「特定継続的役務」に該当するかどうかが異なるからです。
また、「訪問販売」や「通信販売」などの類型では、一般的に使われている「訪問販売」や「通信販売」という言葉の意味と、法律で規定されているこれらの言葉の意味が必ずしも一致せず、一見、訪問販売には該当しないように見えて、実は訪問販売に該当し、特定商取引法が適用される場合もあります。
そこで、特定商取引法が適用され、法に従った対応が求められるのか否かについては、専門家である弁護士が事業者の業務を詳しく聞き取って、判断する必要があります。
本件では、以下の点が検討すべき重要なポイントとなりました。
特定商取引法に関する問題点2点
・問題点1:
本件のパソコンスキル教室に、特定商取引法の適用があるかどうか
・問題点2:
受講料の支払方法が、年一括払い、月払い、いずれの場合も特定商取引法の適用があるかどうか
弁護士の見解
問題点1:
本件のパソコンスキル教室に、特定商取引法の適用があるかどうか
ご相談いただいた年間契約プランは、まず、サービス内容がネットを通じた社会人向けのパソコンスキル向上という、「特定継続的役務」の「パソコン教室」に該当するものでした。
また、サービス提供期間と金額についても、特定商取引法の適用対象となる要件を満たす可能性が高いと判断されました。
問題点2:
受講料の支払方法が、年一括払い、月払い、いずれの場合も特定商取引法の適用があるかどうか
実は、サービス提供の内容が、法で定めるパソコン教室などに該当しても、契約期間の定めがなく、いつでも自由に解約できる制度(「月謝制」のようなイメージ)を取る場合は、長期間にわたり消費者を拘束しないという観点から、特定商取引法の適用対象にはならないと解されています。
しかし、支払方法だけみると、毎月翌月分を支払う「月謝制」と同じでも、契約と同時に高額な教材や関連商品を購入しないといけなかったり、解約事由が制限されるなど、実質的に解約が困難で、契約期間が法が定める期間を超えると判断される場合には、特定商取引法の適用があると判断されるケースがあります。
本件では、相談者に話を聞いたところ、契約と同時に購入しなければならない教材や関連商品はないとのことでした。
また、当初の利用規約案の解約条項では、解約事由に制限が設けられていましたが、弁護士の提案により、解約事由の制限をほぼ無くす形で修正しました。
最終的に、費用を月額で払う形態であれば、特定商取引法の適用はないと判断し、その旨回答しました。
上記のように、特定商取引法の適用については、「月謝制」という形式だけではなく、取引の実態をふまえて判断する必要があるため、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士による修正案の提示
相談者様が作成した利用規約案のうち、特に費用が年間一括払いの形態については、特商法の適用があると判断されたため、下記のような修正案を提示させていただきました。
①特商法上、事業者には、契約締結前の勧誘時に、概要書面を交付するとともに、契約締結時に契約書面の交付を行う義務が課されているため、2種類の書面を作成すること。
②サービスの対価について、受講料と関連商品の金額を合わせた総額をご記入いただくこと。
③講座の受講にあたり、関連商品及び購入する必要のある商品について、名称等をご記入いただくこと。
これらは一例であり、記載する必要がある事項については、年間契約プランの内容や料金設定、業態等によって、細かに変わってきます。
また、書面交付等について、法律に基づいた方法で行われる必要があるため、実際にどのような流れで契約者様に書面をお渡しすればいいのか等も、アドバイスさせていただきました。
本事例の弁護士費用について
本事例の三輪知雄法律事務所の弁護士費用は、以下のとおりです。
弁護士費用(顧問契約なし)
・契約書作成費用:約10万円程度
※これらの金額は、あくまで参考のためにお示しするものです。
※契約書作成に関する弁護士費用については、顧問契約の有無、契約書の内容、作成する条項数などにより異なってきますので、詳細は三輪知雄法律事務所までお尋ねください。
なお、顧問契約を結んでいただいている企業様については、簡易な契約書のリーガルチェックは、顧問料の範囲内で行わせていただいております。
4.三輪知雄法律事務所の様々な分野の「契約書作成」に強い弁護士へのお問い合わせ方法
三輪知雄法律事務所の様々な分野の「契約書作成に強い弁護士」へのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間・平日 9:00〜18:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
※この記事は公開日時点の法律をもとに作成しています。