【パワハラ】【ハラスメント】【調査方法】パワハラが発覚した場合の会社の対処・調査方法等について

1.パワハラ(パワーハラスメント)とは?

昨今、ハラスメントの中でも、特にパワーハラスメント(パワハラ)に関して社会的な関心が高まっています。

最近では、電通で起こった過労死事件でも、被害者に対し、「君の残業時間20時間は会社にとって無駄」「女子力がない」等と、上司からパワハラをうかがわせる発言があったと報道されました。

2018年の都道府県の労働相談件数は、全国で26万件余りと過去最多となっており、その内訳は、パワーハラスメントを含む「いじめ・嫌がらせ」の相談が、前年比14.9%増の8万件余りと7年連続で1位を占めるに至っています。

三輪知雄法律事務所においても、「社員に注意をしたらパワハラだと言われたが、本当にそうなのか」、「社員が部下にパワハラを行っているという情報があり、対応方法について相談したい」というような問い合わせも多くなっています。

会社が、発覚したパワハラに対して、適切な対応を取らないと、パワハラを行った社員だけでなく、会社に対しても、連帯責任が追及され、裁判での損害賠償請求に発展するおそれがあります。

今回の記事では、会社でパワハラが発覚した場合の正しい対応方法についてご説明をしたいと思います。

まず、パワハラの定義については以下の通りです。

パワハラとは?

職場におけるパワーハラスメントは、職場において⾏われる

  1. 優越的な関係を背景とした⾔動であって
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  3. 労働者が⾝体的⼜は精神的に苦痛を与えられ、職場環境が不快ものとなり能力の発揮に悪影響が生じるもの

であり、1.から3.までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で⾏われる適正な業務指⽰や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

2.会社にはパワハラのない職場にするために対策を行う義務がある!

対策を取る義務と厚労大臣の指針

2020年6月1日から法律が改正され、パワハラのない職場を作るために必要な対策を行う法的な義務(※)が会社に課せられるようになりました。

※中小事業主は、2022年4⽉1⽇から義務化、それまでの間は努⼒義務となります。

「パワハラのない職場を作るために、経営者が行わなければならない対策」として、厚生労働大臣の指針で定められたポイントは以下のとおりです。

パワハラのない職場を作るための対策について、厚生労働大臣の指針4点

対策1:パワハラを許さないという方針を経営者が明確に伝える

対策2:パワハラ相談に関する社内ルールを整備

対策3:パワハラに関する事実関係の調査と、パワハラが確認できた場合には、適正な処分等を行う

対策4:相談者のプライバシーを保護し、不利益な扱いをしない

対策1:経営者の方針を明確に伝える

パワハラのない職場を作るために、経営者が行わなければならない対策の1つ目として、経営者が「自分の会社ではパワハラを許さない」という方針を、会社全体に明確に伝える必要があります。

対策2:パワハラに関する社内ルールを整備

パワハラに関する社内のルールとして、最初に検討すべきは就業規則です。

優秀な人材がパワハラ被害で退職したり、会社を提訴する前に適切に対処するには、就業規則の整備が不可欠です。

【就業規則】服務規律に関する追加条項例

会社のルールとして、職場におけるパワハラ行為が禁止されているということを、就業規則において明示しておくことが必要となります。

<条項例>
第8条(服務規律)
1・・・(略)
5 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超える言動により、他の従業員、その他関係者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を悪化させるような行為をしてはならない。

【就業規則】懲戒事由に関する追加条項例

会社のルールとして、就業規則において、職場においてパワハラ行為を行った場合には、懲戒対象となることを明示しておくことが必要となります。

<条項例>
第25条(懲戒)
1 ・・・(略)
2 従業員が次の各号の一に該当するときは、その軽重に応じ、前項に定める懲戒処分を行う。

1 正当な理由なく・・・(略)
3 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超える言動により、他の従業員、その他関係者に精神的・身体的な苦痛を与え、または、就業環境を悪化させたとき。

パワハラが発覚次第、会社への早期報告!これを徹底させてください

社内規定の整備が完了しましたら、次は、パワハラが発覚した場合の会社への報告体制の整備が必要です。

報告体制について、理想としては、大企業のように会社内に「ハラスメント相談室」などの担当部署や、外部の弁護士事務所を相談窓口として設置できれば良いのですが、中小企業では、そこまでの準備は物理的に困難かと思われます。

したがいまして、中小企業では、とにかく社員や管理職に対し、パワハラを把握したら速やかに上に報告を上げるよう、指導を徹底して下さい。

特に、会社への報告をせず、会社が事態を把握しないうちに、担当者がパワハラを個人的に処理しようとすることは、後々、パワハラの隠蔽等と疑念を持たれ、示談などの効力が無効になり、裁判へと発展するなど、トラブルが大きくなる危険が高まります。

会社に速やかに報告させることにより、社長や管理職が、速やかに事態を把握、上司と部下の言い分を早期に聴取し、メール等の客観的な証拠を精査することで、速やかに問題を解決できる可能性が高まります。

問題を放置すると、会社が何も把握しないうちに、被害者側の弁護士から、パワハラについて裁判所に提訴されるなど問題が公になると、ブラックな会社であるなどと噂が広がって、会社の評判が下がり、営業や人材採用等にも影響が出てしまいます。

一般社員も管理職も、パワハラやパワハラの疑いを発見次第、信頼できる上司や社長へ速やかに報告する!
これをとにかく徹底させることで、最悪の事態を回避することができます。

3.パワハラが発覚した場合の会社の対応とは?

パワハラやパワハラの疑いについて、上司や部下から会社が報告を受けた場合に、「会社の基本的な対応の流れ」を以下、ご説明いたします。

パワハラの報告を受けた会社の対応の流れ

対応1:上司と部下の双方から、事情聴取を行う

対応2:当事者のメールの確認

対応3:同僚や関係者への調査

対応4:パワハラの有無と処分の内容についての最終判断をする

対応1:上司と部下の双方から、事情聴取を行う

パワハラの報告を受け次第、速やかに、パワハラに該当する事実があるかどうかを確認するための事情聴取を行います。

通常は、パワハラを受けたとされる部下から事情聴取を行い、パワハラと主張する内容や経緯を確認します。

その後、上司の側からも事情聴取を行い、部下の言い分が事実かどうかを確認することになります。

会社が行うこれらの事情聴取については、言った言わないの問題になることを避けるために録音を行い、事情聴取の仕方が不公平であるなどの争いを避ける観点から、複数人で対応することが望ましいでしょう。

対応2:当事者のメールの確認

パワハラについて事情を確認すると、大抵は「言った、言わない」という証拠のない話になることが多いです。

メールは、客観的に残っている証拠のうち、一番確認が容易な記録ですので、パワハラがあったかどうか判断する重要な資料となります。

対応3:同僚や関係者への調査

パワハラの調査を開始すると、上司と部下の言い分は食い違うことが一般的です。

その場合、当事者が所属していた部署の同僚や他の上司にも事情聴取を行い、上司が部下にとった行動や経緯等について、調査を行います。

対応4:パワハラの有無と処分の内容についての最終判断をする

会社は、以上の調査をふまえて、パワハラの有無を判断することになります。

会社がパワハラを事実と判断した場合は、戒告、減給、降格などの処分を行うことが多いです。

なお、判断に迷うときは、弁護士に相談のうえ判断しましょう。

4.パワハラに当たるかどうかの判断基準3点について

過去のパワハラの裁判例をみますと、パワハラになってしまうのか、業務上必要な指導といえるのか、についての判断基準は、主に以下の3点となります。

パワハラに当たるかどうかの判断基準1

:発言の内容に、部下に対する人格的な攻撃を含んでいるかどうか。

「バカ」、「無能」、「給料の無駄」、「お前みたいな○○は・・」など、個人の人格的な攻撃外見や性格をからかうような発言があると、本当に指導や教育の目的があっても、パワハラの認定を受ける可能性が限りなく高くなります。人格的な攻撃や、外見や性格をからかう発言は、冗談であろうと、上司からの指導としては、させてはいけません。

パワハラに当たるかどうかの判断基準2

:上司の発言や対応は、部下の指導・教育という目的で行われたものか、それとも、好き嫌いの感情や退職に追い込む目的によるものか。

→指導の目的は、上司の心の中の問題だけではなく、事の経緯や関係者の発言等から総合的に判断されます。上司本人が指導だと思っていても、関係者の発言や事の経緯から、パワハラと認定される可能性もあります。

パワハラに当たるかどうかの判断基準

上司の発言や対応の時間内容声の大きさ程度が、客観的に見て、業務の改善のために必要かつ合理的なものかどうか。

→部下を指導する際に、身体への暴力行為がある場合は論外ですが、上司が机を叩きながら怒鳴るとか、声を荒げたりする言動が多い場合には、パワハラと認定されやすくなります。

これらの判断基準をふまえ、会社としては、上司の指導の内容が的確なものであったかどうか、嫌悪の感情に基づくものであったかどうかについて判断し、パワハラがあったかどうかについて結論を出します。

▼職場のパワーハラスメントの典型例についての解説記事はこちら▼

【パワハラ】職場の「パワハラ」6類型をシンプルに解説します

5.調査結果の当事者への通知、加害者に対する懲戒処分の選択について

調査結果の通知

会社は、社内調査の結果を、パワハラの当事者に通知します。

パワハラは、調査の結果、パワハラがなかったと判断された場合でも、被害者が調査結果に納得せず、労基署に労災の申請や、上司や会社に対する責任追及・損害賠償請求がなされるなど、様々な法的要求に発展するケースがほとんどです。

したがって、調査結果いかんにかかわらず、調査結果の通知は適切に行わなければなりません。

特に、被害者から、パワハラ被害を受けていたとの申告が会社になされたケースでは、調査結果を本人に適切に通知する必要があります。

以下、パワハラの被害が確認できた場合、被害が確認できなかった場合の、会社の対処方法として、それぞれ留意すべきポイントをご説明します。

調査の結果、パワハラが存在した場合の会社の対処方法

社内調査の結果を、被害者である社員、加害者である上司に通知します。

パワハラが認められた場合の加害者社員に対する処分について、三輪知雄法律事務所でも相談されることがあります。

加害者の上司への会社の処分について、「これまでの功労者だし、部下にも問題はあったから、処分はなしでもよいでしょうか」などと相談を受けることがありますが、パワハラが認められた以上は、加害者に対して何らかの社内処分は検討せざるを得ないといえます。

でないと、今後、別のケースでパワハラが発生した場合に、前回は不問となったという意識が社員全体に共有されてしまい、適正な処分ができなくなってしまいます。

また、「功労者なので処分無し」を聞いた被害者から、「この会社はパワハラを隠蔽する会社である」と思い込まれ、弁護士等への相談や、損害賠償請求につながりかねません。

そうなると、どんどんトラブルが大きくなってしまい、他の社員の士気や取引先にも噂が広がるなど、会社の損害が拡大してしまいます。そのような事態を防止するためにも、加害者に対する適正な処分は必要です。

調査の結果、パワハラが認められなかった場合の会社の対処方法

調査の結果、パワハラが認められなかった場合は、どのようにパワハラの被害を受けたと申告している社員に伝えればよいでしょうか。

認められない理由については、上記のパワハラの判断基準に照らしてパワハラが認められなかったことを説明するという方法も一つですが、被害を受けたと申告している社員は、被害感情等もあいまって、会社側の説明について納得しないケースも十分想定しておく必要があります。

上司をかばっているとか、会社の調査内容や調査手法が不公平である等と感情的な言葉で批判されることがあります。

そのような事態になっても、会社側としては、感情的な言葉のやりとりを避け、冷静に対応してください。

自分はパワハラ被害を受けたと思い込んでいる社員は、会社側の説明に納得せずに外部の弁護士等を立てて、会社や上司へ損害賠償請求を起こしてくるおそれがあります。会社側が感情的な対応をしてしまうと、その言動が後日、裁判等で不利に使用され、揚げ足を取られかねません。

したがって、会社としては、パワハラトラブルが発覚した時点、遅くとも調査の時点で、調査の方法や社員に対する説明の注意点について、今後の対応を円滑に進めるためにも弁護士に相談しておく必要があります。

パワハラの加害者に対する社内処分の際の考慮要素

パワハラを行った上司等に対し、どのような基準で処分を選択すればよいでしょうか。

まず、パワハラを行った加害者に対し懲戒処分を行うには、パワハラ行為が懲戒処分の対象となることについて、就業規則に定めを置いておく必要があります(上記2参照)。

そのうえで、懲戒処分の選択については以下の要素を考慮します。

懲戒処分の選択についての考慮要素

  • パワハラ行為の内容・頻度等
  • 被害者が退職したかどうか、被害者の精神状態
  • 加害者の反省、謝罪の有無、被害感情
  • 過去にもパワハラ等で懲戒処分を受けていたかどうか

このような考慮要素からしますと、パワハラ行為があったとしても、加害者の上司が過去にパワハラでの社内処分歴もなく、被害者の部下にも反省して謝罪を行っている場合には、就業規則上の定めにもよりますが、「厳重注意」や「戒告」等の軽い処分に留めるが妥当と考えられます。

一方、過去にもパワハラ等で処分されたことがあり、被害者の部下も退職に追い込まれたりしているケースでは、「降格」等の処分を検討すべきと考えられます。

6.三輪知雄法律事務所のパワハラのトラブルについてのサポート

以上をふまえまして、三輪知雄法律事務所におけるパワハラのトラブルについてのサポート内容をご紹介いたします。

三輪知雄法律事務所のパワハラトラブルサポート2点

サポート1:
パワハラのトラブルに関する対応方法のご相談

サポート2:
パワハラのトラブルに関する労働審判、裁判への対応

サポート1:パワハラのトラブルに関する対処方法のご相談

三輪知雄法律事務所では、従業員からパワハラであると被害申告を受けた場合、パワハラのために出社できなくなったので休職したいと言われた場合、会社に加害者への処分を求められた場合、さらには会社の責任を追及された場合などの対応方法に関し、ご相談を承っています。

パワハラトラブルは、被害を受けたと申告があった後、会社が調査を行います。しかし、パワハラの調査結果が、パワハラのあり・なし、いずれにかかわらず、パワハラを受けたと主張する従業員から、うつ病になったとして休職請求や労災認定を求められたり上司に対する懲戒処分や慰謝料請求がなされるなど、慣れていない会社や経営者が一人で対処するには手に余る法的要求に発展するケースが多くみられます。

しかし、パワハラやハラスメント対応に精通した弁護士の助力を得て、適切な調査を行い、一つ一つの主張や要求に対して、正当な回答及び対応を行えば、会社の大多数の無関係な社員や会社の通常取引に影響を与えることはなく、適切に解決可能な問題であります。

三輪知雄法律事務所では、パワハラ問題による加害者の処分や被害者の請求に対する対応・裁判経験を踏まえ、会社においてパワハラが発覚した際、トラブルの早期解決に向けた解決方法をアドバイスいたします。

サポート2:パワハラのトラブルに関する労働審判、裁判への対応

パワハラについては、会社と上司に対し、高額な慰謝料や損害賠償請求がなされ、折り合えない場合には、労働審判や裁判に発展するケースが急増しています。

三輪知雄法律事務所では、パワハラについて労働審判や裁判を起こされた場合も、労働審判、裁判に精通した弁護士が早期に対応し、大多数の社員や取引先、会社への影響が最も少ない解決を目指します。

▼三輪知雄法律事務所のパワハラトラブルに関する取扱分野のご案内はこちら▼

パワハラをめぐるトラブル|企業法務の取扱分野

7.三輪知雄法律事務所のパワハラトラブルに強い弁護士へのお問い合わせ方法

三輪知雄法律事務所のパワハラトラブルに強い弁護士へのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜18:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

※この記事は公開日時点の法律をもとに作成しています。